ChatGPTを含む対話型AIは、近年爆発的に普及しました。言語を理解し、自然な文を生成し、人間の業務や発想をサポートするとされ、無数の業界で「革新のツール」としてもてはやされてきました。しかし実際には、その構造に起因する深刻な欠陥が多く存在し、多くのユーザーが知らぬうちに「AIに振り回される立場」へと追いやられています。
この記事では、ChatGPTの実態を正しく理解し、「使い続けるべきではない理由」を明確に示します。これは、誰かの使い方が悪かったとか、工夫が足りなかったという問題ではありません。構造的に避けられない欠陥により、AIとの共存に限界があるという現実の問題です。
プロンプトに意味はあるのか?──再現性のない“最適化ごっこ”
「プロンプトがすべてを決める」と言われます。たしかに、出力内容に影響を与えることは間違いありません。しかしそれは、あくまで“その場限りの傾向”であり、再現性ある制御とは程遠いのが実情です。
同じ指示文を使っても、ChatGPTはセッションや内部状態によって回答を微妙に変えてきます。その“揺れ幅”が非常に大きく、「一度うまくいったプロンプト」が次の瞬間には機能しなくなるという不安定さを常に抱えているのです。
さらに深刻なのは、プロンプト工学を商材化している業者の存在です。プロンプトテンプレートを高額で売る、セミナーを開くなどして「これさえ使えば誰でも結果が出る」と誤認させる手法が蔓延しています。再現性のない操作法に“公式”など存在しないにもかかわらず、あたかも秘密の奥義であるかのように扱われているのは、無責任の極みです。
プロンプトを追い求める時間こそが、AIの不安定さに振り回されている証であることに、早く気づくべきです。
単純な指示を守れないAI──ミスの頻度が多すぎる現実
ChatGPTは、文章全体の整合性よりも、「自然に聞こえる言い回し」を優先して回答を構築します。この特性が最も悪い形で表れるのが、単純作業でのミスの多さです。
「5つの項目をリストアップして」と頼んだのに4つしか返ってこない。「この構造を真似て」と言ったのに途中で形式が変わる。「AとBを比較して」と頼めば、Bだけを語り始める。このような例は、もはや“たまにある失敗”ではなく、頻繁に発生する“仕様に起因する挙動”です。
自然言語の流れを整えることを優先するモデルだからこそ、正確性や構造保持という観点では決定的に信用できません。これは、日常のちょっとした問い合わせでは見過ごされても、業務やシステム設計といった「精度が命」の作業では決定的な致命傷になります。
嘘をつく──明確な事実誤認と作文による虚構生成
ChatGPTは事実に基づいた回答を生成しているわけではありません。「それっぽい文章を統計的に生成しているだけ」です。この特性が最も危険なかたちで現れるのが、“嘘”です。
何の根拠もなく、存在しない機能や人物名を出してくる。プログラムの構文や制度の説明で、現実に存在しない仕様を堂々と語る。しかも、それらを断定的に、しかも丁寧に装飾された文体で述べるため、「一見正しそうに見える」のが厄介なのです。
このような“虚構生成”は、一見便利に見えても、ユーザーが盲信すればするほど深刻なトラブルを引き起こします。特に、ChatGPTは「知らないことを知らないと言えない」モデルであるため、間違った情報を事実と信じて行動した結果、損害を被る可能性すらあるのです。
記憶を維持できない──長期文脈が壊れる構造的限界
ChatGPTは、セッション内であっても話の一貫性を保ちきれない場合があり、セッションをまたぐと記憶は完全に失われます。この「長期文脈を保持できない」問題は、設計そのものに由来するものであり、ユーザーの使い方で解消できる類のものではありません。
たとえば、前日に決めたルールや方針を、翌日になって忘れている。「この前はこう答えた」と再確認すると、「申し訳ありません」とは返ってくるが、同じ誤りを繰り返す。こういった挙動は、継続的な業務や長期にわたるプロジェクトとの相性を根本的に崩壊させます。
AIに記憶を任せるという選択は、現時点では非常に危険であり、少なくともChatGPTにそれを求めるべきではありません。
出力の揺らぎ──同じ条件で結果が変わる信頼性の欠如
ChatGPTに同じ指示を複数回出すと、そのたびに微妙に違う出力が得られます。これは一見「柔軟性」や「創造性」に見えるかもしれませんが、実務の現場では明確なデメリットです。
文書の構造が変わる、用語が統一されない、段落の順序が前後するなど、「繰り返し使うことを前提とした業務」においては致命的な不安定要因となります。ある種のランダム性が常に介在する以上、ChatGPTの出力には「信頼して繰り返し使えるフォーマット」という性質が欠落しているのです。
指示を無視する──抽象化・要約の押し売り
「具体的に書いてほしい」「この構造で書いて」と明確に頼んだにもかかわらず、ChatGPTは勝手に抽象化したり、段落を要約したりすることがあります。
これはモデルの訓練過程で「冗長さの抑制」や「簡潔化」が好まれた結果であり、個別の指示で完全に制御することは困難です。たとえば、マニュアルの一部として細かな手順を網羅しようとしても、ChatGPTは勝手にまとめようとし、肝心な工程が抜け落ちることがあります。
また、文章の展開においても「それっぽい一般論」に流れがちで、個別ケースや具体事例への対応が弱くなるのも構造的な欠陥です。
情報の出典が不明──責任の所在が曖昧すぎる
ChatGPTが出力する情報には、引用元も出典も明示されません。そのため、ユーザーは「本当にこれは正しいのか?」という検証を自力で行う必要があります。これは、「AIを使えば情報収集が楽になる」という期待を大きく裏切る事実です。
しかも、間違っていたとしても責任は問えません。AIに「なぜそう答えたのか?」と尋ねても、出典を示すことはできず、仮に嘘を指摘しても訂正の根拠を示せるわけではありません。つまり、「誰も責任を取らない情報」が量産されている状況だと言えます。
AIに頼ることのリスク──被害はユーザーに集中する構造
AIを「うまく使えなかった人」の責任として扱う言説が少なくありません。しかし、使い手にすべての責任を負わせる構造は不健全です。
正確な出力を求めたのに守られない。誤った情報を信じて損害を被る。大量の修正を強いられて、時間を浪費する。これらはすべて、「AIの挙動」に起因するものであり、ユーザーの落ち度ではありません。
それにもかかわらず、失敗は“使い方が悪かった”と一括りにされ、AIの側には何のペナルティもフィードバックもない。この構造こそが、ユーザーを慢性的な被害者にしている原因です。
代替手段と“AIから距離を取る”という選択肢
ChatGPTがすべての用途に最適であるとは限りません。むしろ、用途に特化した他のツールの方が安定性・制御性の点で優れていることが多々あります。
- 文書の構成 → Scrivener(アウトラインの維持が可能)
- 日本語文章の校正 → Shodo、文賢(AIの冗長化を回避)
- 調査補助 → 明示的に出典を記載する専門記事データベース
- コード支援 → GitHub Copilot(エディタ連携で構造保持)
こうしたツールと併用しつつ、ChatGPTから徐々に離れていくことが、業務効率や安全性を取り戻す道です。
結論──ChatGPTから離れることは敗北ではない
AIに期待したことは間違いではありません。ただ、その期待に見合うだけの信頼性・構造性・誠実さが、ChatGPTには備わっていなかった。それが今の現実です。
「使いこなす」から「振り回される」へと変わっていく過程を、多くのユーザーが既に経験しています。最初は便利だと感じた機能も、徐々にその制御の難しさ、不安定さ、責任の所在のなさに疲弊していく。この構造を放置してはいけません。
ChatGPTを否定するのではなく、距離を取る。
信頼できるツールを選び、情報を自ら検証し、必要以上にAIに依存しない体制を整える。
それこそが、現実的かつ健全な対応なのではないでしょうか。