監督から方向づけへ変わる働き方
AIエージェントにコードを書かせてきた人なら、これまで自分がやってきた仕事を思い出してみてください。タスクを小さく刻んで渡し、出てきたものを一つずつ点検し、途中で手が止まっていないか見張ってきました。要するに、AIが作業を正しくこなしているかを確かめる仕事です。ところがFable 5をめぐって、AnthropicのThariq Shihiparはまるで逆のことを語ります。いま確認すべきは、Claudeが作業を正しくこなしているかではありません。そもそも正しい仕事に向かっているかどうかです。Fable 5は何時間も走り続け、しばしば書き手本人より良いコードを返してきます。だから役割は、監督から方向づけと段取りへ移ったのです。ここでShihiparが重ねる指摘に、筆者は背筋が伸びました。出力の質を頭打ちにするのは、もはやモデルではありません。使う人間が、自分の理解の穴をどれだけ言葉にできるか。そこなのです。
知っていることと知らないことを四つに仕分ける発想
Shihiparの土台には、知識を四つに分ける見方があります。すでにプロンプトへ書き込めているものが、わかっていてわかっていること。まだ答えを出せていないと自覚できる問いが、わかっていないと気づいていること。あまりに当たり前でわざわざ書かないのに、示されれば即座にうなずくもの、これが自覚のないまま持っている知識です。最もやっかいなのが、考えたことすらない領域。Shihiparが決定的だと呼ぶのは、この四つ目でした。厄介なのは、この盲点が計画の段階では顔を出さない点です。実装の奥まで進んでから牙をむき、ときには問題そのものを別のやり方で解くべきだったと告げてきます。腕のいい書き手ほど盲点は少ないのに、それでも必ずあるものと身構えています。この覚悟こそ、まねる値打ちがあるはずです。
細かすぎても曖昧すぎても失敗する仕組み
プロンプトで一番難しいのは、どこまで細かく書くかの加減でしょう。指示を詰め込みすぎると、Fable 5はそのとおりに従い続けます。途中で進路を変えたほうが明らかに筋のいい場面でも、律儀に間違った道を走り抜けてしまいます。逆にゆるく投げれば、返ってくるのは業界の当たり前をなぞっただけの、目の前の課題に合わない答え。盲点を勘定に入れなければ、細かくても大ざっぱでも、どちらに転んでも失敗するのです。Shihiparが挙げた対処が、制約ではなく背景を渡すことでした。「単純に、作り込みすぎるな」と言う代わりに、彼はこう伝えます。この機能は実験で、一か月後に消す見込みがある。だから捨てるのがつらくなるものは作らないでほしい、と。背景を渡すだけで、Claudeは書き手が思いつきもしなかった判断まで拾い上げてくれるのです。
作る前と作った後で盲点をあぶり出す具体策
実装に入る前、Shihiparはいくつもの手を使い分けます。知らないコードへ踏み込むときは、Claudeに向かって、自分が気づいてすらいない見落としを洗い出してくれと頼みます。デザインのように感覚がものを言う領域では、いきなり書かず、まるで方向性の違う案をHTMLで何通りも出させて反応を見ます。一問ずつ曖昧な点を尋ねさせ、答え次第で構造が変わる問いから片づけるインタビューも有効です。Claude Codeには、二つの新しい機能が加わりました。走り続けるべき到達点を示すゴールと、その仕上がりを確かめる手順であるワークフロー。仕様を全部実装するゴールを与え、各部分を検証して何を実装し何を後回しにしたかを報告させます。作った後には小テストが待ちます。変更点をまとめたレポートとクイズをClaudeに作らせ、満点を取るまで統合しません。自分が本当にわかっているかを、そこで問い直すわけです。
未経験の動画編集をFable 5で仕上げた実例
この考え方が噛み合った実例が、Fable 5の紹介動画でした。編集はまるごとClaude Codeで進められ、しかも動画編集はShihiparにとって未知の領域です。まず知っていることから始めます。Claudeはコードで動画を切り、文字起こしもできます。ただ精度が足りるかはわかりません。そこでWhisperの仕組みや、ffmpegでつなぎ言葉や無音を正確に切れるのかを教わりました。UI要素をふわりと浮かび上がらせる演出はRemotionで試作。ところが色が平板に見えたとき、彼は手を止めます。自分には、色について何が良いのかがそもそもわからなかったのです。だから案を当てずっぽうに選ぶのをやめ、色そのものをClaudeに教わる側へ回りました。モデルが強くなるほど、正しく向き合った人だけが遠くまで行けます。あなたが数時間かかると身構える作業の隣で、Fable 5はもう走り出しているかもしれません。そのとき問われるのは、モデルの力ではありません。自分の知らなさを、どれだけ先に言葉にできるか。

