ChatGPTはどこまで「買い物の入口」になったのか?データから見るECとAIのいま

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チャットで商品を探す時代へ:背景と今回のポイント

ここ数年で、「検索エンジンでキーワードを打つ」だけでなく、「ChatGPTにおすすめを聞く」という行動が当たり前になりつつあります。特にセール時期になると、「この条件で一番お得なテレビ教えて」「〇万円以内で買えるゲーミングPCを比較して」といった相談ベースのショッピングが増えています。

今回紹介するデータは、そうしたチャット経由の行動が、実際にどれくらいECアプリのダウンロードや利用につながっているのかを、ブラックフライデー期間を中心に整理したものです。結論だけ言うと、ChatGPT経由のEC流入は前年比で大きく伸びている一方で、「全体から見ればまだ小さいが、将来の伸びしろは大きい」という段階にあります。

この記事では、数字の中身を噛み砕きながら、「なぜ今この変化が起きているのか」「どのプレイヤーが得をしているのか」「中小ECやアプリ事業者はどう備えるべきか」を順番に見ていきます。

ブラックフライデーで何が起きた?数字で見るChatGPT経由トラフィック

あるモバイルアプリ分析会社の推計によると、2025年のブラックフライデー期間(感謝祭木曜〜日曜)におけるChatGPTから小売系モバイルアプリへの「誘導セッション」は、前年比で28%増加しました。ここでいう誘導セッションとは、「ChatGPT利用の直後、30秒以内にリテールアプリを開いたケース」を指します。

一見するとかなり大きな伸びに見えますが、全体のなかでの比率はまだごく一部です。ブラックフライデー当日のChatGPT利用全体のうち、ECアプリへの誘導につながったのは昨年0.64%、今年は0.82%に増えた程度とされています。つまり、

  • 成長率:+28%と急上昇
  • 絶対規模:まだ1%にも満たないニッチな行動

という二面性を持った市場だと言えます。ただし、こうした割合は新しい行動様式が広がる初期段階ではよくある姿で、「使う人は着実に増えているが、まだ一部の先行ユーザーに偏っている」状態と見るのが自然です。

誰が一番得しているのか:大手ECに偏るトラフィック

興味深いのは、ChatGPTからECアプリへの誘導が「どこに流れているか」です。最新のデータでは、そのうちの半分以上が特定の大手プレイヤーに集中していることが示されています。

具体的には、大手ECプラットフォームA(記事元ではAmazonに相当)のシェアは、昨年の40.5%から今年は54%へと大きく増加しました。また、総合小売チェーンB(Walmartに相当)は、2.7%から14.9%へと急伸しています。つまり、ChatGPT経由の買い物相談やリンククリックが増えるほど、その多くが既に知名度の高い巨大プレイヤーに流れている構図です。

これは、以下のような要因が重なっていると考えられます。

  • ユーザーが「とりあえず一番メジャーなショップ」を好む傾向
  • 大手ほど商品データやレビューが豊富で、AIが推薦しやすい
  • クーポン・ポイント・配達速度など、比較しやすい強みを持っている

その一方で、中小のECアプリやD2Cブランドに対する誘導は、全体として大手の影に隠れがちです。「AIで新しいショップが見つかる」というポジティブなイメージとは裏腹に、現時点では「強者がより強くなる」方向に働いている可能性がある点は押さえておきたいところです。

AI経由のユーザーは本当に「買いやすい」のか

別の調査では、ブラックフライデーの米国ECサイトにおける「AI経由トラフィック」が前年比805%増、サイバーマンデーでは670%増、11月1日〜12月1日のホリデーシーズン全体では760%増という数字も報告されています。これは、ChatGPTに限らず、さまざまなAIチャットやエージェントからの流入をまとめたものです。

さらに重要なのは、「AIからのリンクを踏んで来たユーザーは、そうでないユーザーに比べて購入に至る確率が約38%高い」とされていることです。これは、AI経由のユーザーは以下のような特徴を持ちやすいからだと考えられます。

  • すでに欲しいものの条件(予算・用途・好み)が整理されている
  • チャットの中で商品比較や疑問解消を済ませてからアクセスしている
  • 「これを買うつもり」という意思決定に近い段階でサイトに来る

従来の検索広告やバナー広告と比べると、「なんとなくクリックした」のではなく「相談した結果、候補を絞ってから来た」ユーザーが多いため、コンバージョン率が高くなるのは自然な流れと言えます。

中小ECやアプリ運営者が今からできる4つの対策

とはいえ、「結局大手しか得しないのか」と諦める必要はありません。ChatGPTのようなAI経由の流入が広がっていくときに、中小ECやアプリ運営者でも取り組める具体的な対策はいくつかあります。

  • ① 商品情報を「AIが読みやすい形」に整える
    タイトルや説明文、仕様情報を構造的かつわかりやすく記載することは、人間だけでなくAIにとっても重要です。サイズ・素材・対象ユーザー・利用シーンなどをテンプレート的に揃えておくと、チャットの回答候補として引き上げられやすくなります。
  • ② レビューやQ&Aを充実させる
    AIは公式説明だけでなく、ユーザーレビューやよくある質問も参考にします。「どんな人に向いているか」「どんなシーンで役に立ったか」といった具体的な声が多いほど、AIが文脈に応じた推薦をしやすくなります。
  • ③ 自社サイト内でのAI検索・チャット導入を検討する
    外部のチャットに頼るだけでなく、自社サイト内の検索やチャットボットをAI対応にすることで、「自分の店の中での会話型ショッピング体験」を先に作ることも有効です。これにより、ユーザーの相談パターンやニーズが見えやすくなり、外部AI向けの情報設計にも活かせます。
  • ④ プロモーション文やキャンペーン情報を「質問されやすい形」で用意する
    例えば「◯月◯日まで送料○○円」「初回購入は○%OFF」「まとめ買いで○円お得」といった情報は、AIが答えやすいように明確な条件と数字で表現しておくと、キャンペーン紹介の文脈で拾われやすくなります。

これからの「検索」はリンク一覧ではなく会話になる

今回のデータが示しているのは、「ChatGPTがECの主役になった」わけではなく、「会話型インターフェースが新しい入口として立ち上がりつつある」という、まだ始まりの段階です。シェアという観点では大手ECが先行していますが、中長期的には「どのようにAIと対話する前提で情報を設計するか」が、あらゆる小売・サービスにとって共通の課題になっていくはずです。

ユーザー側から見ると、「安いものを探す」「条件に合うものを比較する」といった作業を、自分一人で調べて回る必要はどんどん減っていきます。その代わり、「どう聞けば自分にぴったりの回答が返ってくるか」を学ぶことが重要になってきます。

事業者側にとっては、SEOや広告運用と同じくらい、「AIにとってわかりやすい商品情報・価格情報・キャンペーン情報とは何か」を考える時代が始まっています。ChatGPT経由の流入割合が1%を超えるかどうか、という早い段階から準備をしておくかどうかが、数年後の差につながっていくかもしれません。

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